香りの記憶

約15ヶ月ぶりのベイエリアの初日は快晴だった。ホテル横を通るトレイルを夕方散歩する。自転車と散歩する人たちに紛れて、のんびり歩く。

どこまでも広がる大きな空。遠くに聞こえる喧騒。トレイルから見える住宅地や学校。

慣れ親しんだ景色に胸がホッとして、ベイエリアに戻ったのだと体が認識する。

色づき始めた木の葉。夕方の少し湿った土。校庭の芝。

乾いた空気に混ざったそんな香りを体と心に染み込ませるように、大きく深呼吸する。

そうそう、これがベイエリアの香り。

香りと情景は、景色よりももっと深いところで繋がっているのを体の奥で感じる。

ハワイの甘い花と海風の香り。

シンガポールの重い湿気の中に溶け込んだ多国籍なスパイスの香り。

東京の埃っぽい密な空気の香り。

数日前は、運転中の車中からでも、レッドウッドの香りがした場所があって、北カリフォルニアの情景が呼び起こされた。

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今朝は近所のビーチで、サーファー達が波に乗るのをぼーっと眺めていた。そういえば、17才で初めてボディーボードで波とたわむれた楽しい思い出は、サンディエゴのビーチだった。あれからずっとボディーボードやサーファー鑑賞が好きでいる。あの時の記憶が、何十年も響き続けていることに気がつく。

潮風と太陽の香りがする。アジアのビーチのように、むっとした磯の香りが、鼻につかない。かすかに漂う潮風の香りも、明るい太陽に照らされて、注意しないと蒸発して消えてしまいそうなくらい。サーフィンには、ちょっと物足りない小さな白波が押し寄せる。

ゆっくりブレイクする青いワイキキの波が頭に浮かぶ。時間の流れが、波にも反映されてるみたいに。

ワイキキビーチはいつも天気がよくて、強い日差しと、観光客が使う日焼け止めの香りが漂っている。

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香りは、いつも過去形だな、と。

体の奥深くから引き出されてくる記憶。いつかどこかの思い出。体が実際に訪れた場所と体験。

ワインのたしなみ方と似ている? 私は飲めないからよくわからないけど、練習するとワインの中のいろんな情報を味わえるようになるんだって。だから、人生が深まるほど、ワインの楽しみ方も深まるんだとか。ワインで、内側の情景を引っ張り出してくるってことか。

初めて訪れた場所の香りは、当たり前だけど記憶に残ってない。似ている香りなら、引っ張りだしてこられるけど。

2回目から、記憶が再生される。

面白いな。

でも、香りが、記憶を再生させるなら、内側の自分にとってのインスピレーションにはなりにくいんだろうか? 過去の情報じゃなくて、現在とこれからに向かった情報は、得られないのか?

アロマセラピーは、詳しくないけど、気分がスッキリしたり、気分転換になったり、精神的&感情的部分に変化があるのは、わかる。

フランキンセスやパチュリーが実際にどんなものなのか知らないし、嗅いだところで、具体的な情景が引っ張り出されるわけじゃない。

でも、万人にとっての効果があるってことは、アロマセラピーに使われるような香りは、ズーッと昔からあって、それぞれの時代や文化の、集合的な記憶につながっているのかもしれないなと思う。だから、具体的な情景や思い出をすっとばして、たましいの記憶に働きかけられるのかと。

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香りって、個人の思い出レベルからたましいレベルまで浸透してるんだ。そういえば、(今さらだけど)香りも、目に見えないね。同じラベンダーでも、わたしとあなたでは、受け取り方が全く違う。

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